[有名になったら:]

有名になったら

「俺が有名になったら、きっとこの恩は返すから」アマウルシオがダミ声で言った。
 彼は、街角で相棒の小柄な中年女性とノルデステ(東北伯)の歌を歌って、通行人から得るお金で生計立てている。
 ぎょろっとした目、ちらほらと白いものが混じる無精ひげ、どう見てもぱっとしない田舎のおじさんである。見た目は僕より
上に見えるが、もしかしたら僕より若いのかもしれない。
 町で彼らを見かけると、数枚の写真を撮らしてもらい、僕の好きな歌をリクエストし、数レアルのお金を前に置かれた箱に入れる。その度に、俺が有名になったら・・・・、と僕にいってくれる。あたかも自分に言い聞かせるように。
彼の、自分を信じる力、思い続ける力に触れていると、生活に追われて忘れかけていたモノを思い出した。
例え有名になれなくても、絶望しながらも、頑固な彼は死ぬまで歌い続けるだろう。そんな無骨な生き方もいいかもしれない。

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