はじめに


ピラルク(Arapaima gigas)

 ピラルクは 世界最古の淡水魚として有名で 1億年以上も その姿を変えずに アマゾンにて ひっそりと しかし 堂々と 生き続け淡水のシーラカンスとも言われる世界最大の淡水魚である、最大の物は4m超えるとも言われるが確認はされていない 確認されている物では 3m 200kg超える物は 度々報告される。

 ピラルクの名のピラとは、現地インディオ語で魚 ウルクンとは, そこに繁殖し赤い染料を取るための樹木の名前であり ピラルクの鱗の廻りの鮮やかな赤色の縁取りが この樹木の実に似ているところから この名で呼ばれる 現地語名である。この鮮やかさ美しさのためか,日本等では 鑑賞魚として人気があり 多くの稚魚幼魚が輸入されている。

 しかし近年のピラルクの歴史を調べてみると 意外にも この魚は現地人のごく一般的な魚肉タンパク源となっていた魚であった。そして1960年代までは、年間2000トン以上の水揚げ量が記録されている、それが70年代に入ると年間300トンを割り込み今や絶滅の危機さえ感じさせる程の幻の魚と言われる程になり,現在ワシントン条約にて厳しく管理される魚となってしまっている。

 なぜ この様な急激な減少となったか その原因は人類のエゴイズムによる乱獲意外にないのだが もうひとつ、ピラルクの持つ生理生態にも大きな原因があることも確かである。

 1950年代それまで苦しんだ世界大戦が終了して世界に平和が戻り各方面の産業 科学が著しく発展したと同時に交通機関 輸送機関の目覚しい発達は それまでアマゾンの大河の中 原住民の最高の美食として悠然と泳いでいたピラルクに 大変化を与えた 美味で温和な性格で捕獲されやすいアマゾンの大魚は外から来る人々に捕獲されまた当時の現地人にするとかなり高価な値にて取引されたため乱獲に拍車をかけられた、当時アマゾン河口のベレン市の港には 連日何トンにもなるピラルクが山積みされ荷揚げされていたと言う。

 さらに悪い事に ピラルクの成熟は遅く天然物で5〜6年かかると言われる 乱獲当時に主として捕獲された物は5〜60kg程の3〜4歳魚であった また原住民達は 聖なる行事としていたピラルクの産卵期 河の浅瀬に産卵床を作り 産卵子育てをして幼魚が巣立つまでの間は、近寄る事はなかった(後に説明するが)近寄る事が出来なかったと言う方当たっているかもしれない しかしこの産卵期も外から来る人々には絶好の捕獲期となりこの時ほどたやすく100kgを超える大物が取れる時がなかった。こうしておびただしい数のピラルクが被害にこうむった。

 更に悪い事に 前にもチッヨト書いたが産卵期に産卵床を作り産卵するが幼魚が巣立つまでの2〜3ヶ月ピラルクの雌雄は仲良く子育てしその場を動かず雄は産卵床を中心に約300uを守り中に外敵が入るとあの巨体で体当たりして追い払う原住民の使う小型のカヌーの様な物など軽くひっくり返されてしまう その為彼らは、この時期にその聖域には近寄らなかった これが大型の船でもピラルクは逃げも隠れもせず正々堂々と体当たりして時には自らのうしんとうを起こしてしまう。そしてこの近くに雌が子供を守っている事を知らせる その雌も逃げも隠れもせず体当たりと言う唯一の武器で敵を追い払おうとするだけである、そして巣立つ前の稚魚達は守る親を失うと自力だけでは,生きていけないも言われる。この様に成熟する前の青魚をどんどん取られ 産卵している成魚は 自ら体当たりしてきて 残された稚魚は生存出来ないのではたまった物ではなかったはずだ。

 また全く別の記録で1951年ブラジル農務局 ルイ シモエス編集の「ピラルク生態ノート」をまとめている また同時期にアマゾン水域(支流域も含む)にしか生存しないこのピラルクを他の地域の湖沼等に移植して繁殖をはかろうと試みて実際に行ったと記録されるが不思議な事にそれらのデータ―は何一つなくその後現在まで他の地域でピラルクが取れたと言う報告すらない。これらの総てが全滅したとしか考えられない 何故こうなったのか その原因については 想像でしかないが成熟する前に捕獲されてしまったとしか考えられず,この様にたやすく捕獲される原因もピラルクの持つ性格のひとつに約20分に一度程水面に出て呼吸するため簡単に見つけられてしまうためでは ないだろうかと 思われる。 このように いたって重要な魚種でありながら その観察 研究は皆無に等しくこの方面においても幻の魚と言う感じである。

 しかし ごく最近の1990年代に入り各地でピラルクの養殖を本気で考える人々が現われて来た。しかしその養殖方法は 完全な粗放養殖で 広い池に餌になる小魚を繁殖させその中にピラルクの稚魚を入れ自然に大きくなるのを待つ物でしかなった。

 95年に入り北伯の大資本家が27ヘクタールの池にて養殖開始、ピラルク養殖では 1f当り4560kgの生産が可能である とか 繁殖のためには 400u以上の池が必要であるとか 生きた魚しか食べない等の情報が一般的に信じられている。

 さらに 99年5月に ブラジル最大の淡水魚養殖会社とアメリカ資本との合同にてピラルク養殖に乗り出す すでに80万ドルかけて水上浮上式実験室および孵化場を製作したと発表した。

これら 外部の情報と別に我々のグループでは、97年始めより ピラルクの研究を始めて行くにつれて この魚がいかに優れた養殖魚種であるかを確認して行っている。

 我々の 実験養殖ではピラルクの持つ性格特徴を十分調べ研究した上でそれに合わせた養殖方法を考案して実行している。この方法によると従来のような広大な池は必要なく小さな池でも大量のピラルクを生産できる(高密度養殖が可能)その単位面積当りの生産量は 現在の実験結果で20kg/uの密度で順調に成育中更に高密になっている。大掛かりな特別の設備機具も殆ど使わず僅かな水交換のみにて これだけの 生産を上げる事は他の魚種では不可能な驚異的な事である 更にピラルクの生長は 非常に早く 餌付終了後の幼魚から1年の肥育で10kg程に生長する。これも驚異的な事である。

 さらに 従来は 活餌でないと食べないと言われていたが 稚魚幼魚期において餌付用の餌にて訓練すれば その後 配合餌料のみにて飼育可能である事も究明した。

 水質的には、彼らは 直接 空気呼吸も出来るので水中の溶存酸素がほぼゼロになり他の魚類が全滅してもピラルクは殆ど影響なく生存し続ける。欠点として上げられる物の一つとしては、熱帯性魚である為 飼育水温は25℃でなくてはいけなく 理想の生長をさせるためには、28℃程が良いと言う事である。

 ピラルクの市場性だが その昔アマゾン原住民の最高の美食と言われたように白身の非常に癖のない肉でどのような調理方法にも合う。しかしこのピラルクの味がでるのは体重が7〜8kgを超え肉に締りが出始め十分締った10kg物からが販売に適していると考える。 現在のところ 我々のグループとは言う物の 殆ど個人的に 飼育、研究が続けられているため まだまだ不明点もあるが、このピラルクと言う魚が 新世紀に向けて非常に注目すべき魚種である事は 十分確信している。

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